02

News

【開催レポート】慶應義塾イノベラボ第0期を振り返る「産学連携・情報交換会」@三田キャンパス北別館

社会課題の解決において、大きな可能性を秘める研究開発型(ディープテック)スタートアップ。その挑戦を資金面で支え、ともにイノベーションを創り出す人材を育成するべく、「慶應義塾イノベラボ」が発足した。
その中核をなすのが、事業や投資が社会や環境に及ぼす影響をアクションにつなげるための手法「インパクトマネジメント」。資金の支え手が積極的に研究者や起業家と連携し、社会課題の解決とともに新たな価値を創造する——未来を拓く思考と実践がそこにある。

イノベーションは、“技術×事業×社会課題”の重なる領域から生まれるのではないか。
この仮説のもと、保険会社や金融機関などの投資担当者らがスタートアップとの共同ワークをはじめ、対話と実践を重ねてきた2025年「慶應義塾イノベラボ」第0期の試み。
その締めくくりとして、さらなる展望を描くための交流の場「産学連携・情報交換会」が、慶應義塾三田キャンパス北別館にて開催された。大学と金融、多様なインパクトの実践者たちが交わした未来への展望と、それぞれの想いをレポートする。
(2025年11月13日、慶應義塾大学三田キャンパス北別館にて実施。敬称略にて構成。所属・職位は実施時のものです)

写真:菅原康太(フォトグラファー)
編集&文:深沢慶太(編集者)

[前回記事]
【開催レポート】慶應義塾イノベラボ第0期@鶴岡サイエンスパーク(後編)『イノベーションを学ぶ』

「慶應義塾イノベラボ」第0期を振り返る交歓の場

研究開発型(ディープテック)スタートアップとともにイノベーションを共創する、新しい人材の育成を目指して2025年後期に開講した「慶應義塾イノベラボ」。
今期はパイロット版(第0期)という位置付けのもと、機関投資家らを主な対象にプログラムを実施。社会課題解決を価値創造につなげる「インパクトマネジメント」を中心に、基礎的なレクチャーをはじめ、9月下旬には慶應義塾大学先端生命科学研究所(慶大先端研)やスタートアップ企業が集積するイノベーション拠点「鶴岡サイエンスパーク」(山形県鶴岡市)を訪問。実在するスタートアップとの共同ワークに取り組むなど、実践的なセッションを重ねてきました。

締めくくりとなる11月13日には、慶應義塾大学三田キャンパスに新設された北別館にてワークショップを実施。その後、締めくくりとして「産学連携・情報交換会」が開催されました。前例なき挑戦となった「慶應義塾イノベラボ」第0期の足跡を振り返りながら、参加メンバーや来賓・関係者など、さまざまな声が寄せられた会の模様を、抜粋にてお届けします。

開会挨拶〜活動紹介:“技術×事業×社会課題” の接合点を問う試み

山岸広太郎(慶應義塾)
慶應義塾大学は、大学の社会的使命として従来の教育・研究・医療に加え、その成果を社会貢献につなげるべく、社会課題解決につながるディープテックのスタートアップ支援に力を入れています。その上でスタートアップの持続的な成長につながるイノベーション・エコシステムを創出するべく、日本学術振興会「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」の一環として、インパクト共創人材の育成プログラム「イノベラボ」を開講した次第です。産業界、金融界、そして大学関係者によるコラボレーションのさらなる盛り上がりを期待しています。

[司会]渡邊直之(慶應義塾大学 イノベーション推進本部)
これまでの「イノベラボ」の活動を「イノベーションと出会う」「イノベーションを学ぶ」「イノベーションを広げる」という3つの視点から、振り返ってご紹介します。
まず「イノベーションと出会う」パートでは、イノベーション・エコシステムの現場である鶴岡サイエンスパークを訪問。慶大先端研の初代所長を務めた冨田勝氏には同地の歩みに加え、「誰のために、何のために仕事をしているのか」を率直に語り合う場を提供いただきました。※1

「イノベーションを学ぶ」パートでは、Impact Frontiersの須藤奈応ディレクターにご協力いただき、これまでの“技術×事業”という掛け合わせに対し、さらに“社会課題”のレンズを重ねることで、インパクトマネジメントにおける最も重要な視点「誰のどんな課題をどう解決するのか」を深掘りするセッションを実施。鶴岡サイエンスパークに拠点を置く研究開発型スタートアップ3社との対話を通じて、インパクトマネジメントのケーススタディに取り組みました。※2
そして本日は「イノベーションを学ぶ」第2弾として、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)の五百木誠准教授のリードによる「システム×デザイン思考ワークショップ」を実施。衛星データビジネスをテーマにアイデア発想に取り組み、“技術×事業×社会課題”の3つの円がどこで重なり得るのかを探求しました。

また「イノベーションを広げる」パートでは、海外のインパクト投資家とオンラインで対話。これに加えて本日、“知の力”を社会実装する実践の場として今年3月に完成した北別館にて、この「産学連携・情報交換会」を迎える運びとなった次第です。

投影資料より、“技術×事業×社会課題”の接合点をイノベーションと位置づけた集合図。

これらのプログラムは研究開発型スタートアップを軸として、“技術×事業×社会課題”の接点でインパクトが生まれるのではないかという仮説に沿って実施したものです。
次に、開講前の企画段階から有識者会合などを通じてご支援をいただいてきました、株式会社かんぽ生命保険の春名貴之 専務執行役から、産学連携への期待という観点でお話をお願い致します。

※1 (参考記事)【開催レポート】慶應義塾イノベラボ第0期@鶴岡サイエンスパーク(前編)『イノベーションと出会う』
※2 (参考記事)【開催レポート】慶應義塾イノベラボ第0期@鶴岡サイエンスパーク(後編)『イノベーションを学ぶ』

【来賓挨拶】春名貴之(かんぽ生命保険):垣根を超えた想いで未来を描く

春名貴之(かんぽ生命保険)
私どもは産学連携の枠組みで慶應義塾大学をはじめ、各大学との連携を進めています。先日も学生と話を交わすなかで、あらためて感じたことがありました。生命保険は扱う金額が大きく、期間も長い産業です。しかし、お金自体には“色”はありません。けれども、お金に想いを込めることはできるのではないか。このお金は誰が、どんな形で、何の目的のために託したものか。それをどうやって活かしていくのか。そうした想いをこの先どのように伝えていくかを考える責任が、私たちにはあると思います。
日本は戦後、国土の復興を大きな社会課題として数多くの産業が立ち上がり、世界へ広がっていきました。では翻って今、私たちは子や孫の世代に何を残すことができるのか。この国の未来を、どのような形で託していくのか。そう考えた時に、日本には大学という知の集積がある。ならば、大学と一緒にイノベーションを導くことこそ、私たち金融に関わる人間の重要なミッションではないか。そう考えるに至りました。

つい先日、沖縄科学技術大学院大学を訪問したところ、教員も学生も大半が外国人で、国境も言葉も超えて「社会に何ができるか」という課題に取り組んでいる様子に心を揺さぶられました。これに限らず、日本の大学には豊かなポテンシャルが眠っていると感じます。また、私はかんぽ生命で企業風土改革に取り組んでいるのですが、そのなかにおいても、組織や価値観を超えて対話することこそがイノベーションにつながると実感しています。
この3カ月間、まさにそうした対話を重ねてきた「イノベラボ」の参加者のみなさんの心には、小さなイノベーションの芽が宿っているのではないでしょうか。だとすれば、大学や産業界などの垣根を超えて、その仲間をどれだけ広げていけるかが、子や孫の世代に向けて社会課題を解決していく大きなソリューションにつながるのではないか。その想いを込めて、第0期修了の御礼と祝意を申し上げたいと思います。

【受講者の言葉】それぞれの気づきと共創への想い

来賓挨拶に続き、インパクト推進に取り組む関係者の挨拶や交流の時間を経て、「産学連携・情報交換会」もいよいよ後半。「慶應義塾イノベラボ」第0期の参加メンバーたちが、今期の課程で得た学びや発見を発表します。メンバーたちは鶴岡サイエンスパークにおけるスタートアップとの共同ワークをはじめ、この日の午前から夕方にかけて行われた「システム×デザイン思考ワークショップ」に至るまで、所属や役職を超えた3つのグループに分かれ、力を合わせながらセッションを重ねてきました。ここでは各チーム一人ずつ行われた振り返りの発言を、一言ずつ抜粋してご紹介します。

[チームA]
「インパクトを通じて『誰のどんな課題を解決するか』をわかりやすくする考え方に触れることができました。その上で、わかりにくいから投資しないのではなく、理解しようとする姿勢が大切だと気づかされました」
「『インパクトとは何か』この問いに方程式は存在しません。社会とのつながりをシステム全体で捉えるためにこそ、仲間と議論を深めていく必要性に思い至りました」
「ステークホルダーを思い浮かべて発想を広げ、一人ではたどり着けない集合知につなげていく体験でした。自由に発想を交わすことのできるチームを、ぜひ自分も作りたいと思います」
「一人で考えるのではなく、議論に加えて共感を共有することの意義を実感しました」
「ここで得た気づきを、ぜひ自分の組織に持ち帰りたい。これだけの多様な方々と触れ合う機会にこそ、アカデミアの強みがあると感じました」

[チームB]
「投資を通してどのようにインパクトを実現し得るのか、話し合いながら精度を高める経験ができ、感謝しています」
「1分1秒でも早く正解が求められる日常業務に対して、1分1秒でも長く問いを深め続けることが大切だというメッセージをいただきました」
「組織を超えた協調こそが、ロジックモデルのブラッシュアップをはじめ、インパクトにつながる道筋だという手応えを感じました。この体験を、社会解題解決に取り組むスタートアップへの投資の機会につなげていきたい」
「アメリカでイノベーション創出のエコシステムを体験した者として、いよいよ日本もそのステージに到達したことを感じ、大いにワクワクしています」

[チームC]
「技術に対して、苦手だからと逃げずに向き合う姿勢の大切さを学びました」
「実務でも公益性と経済性を両立する難しさを感じてきましたが、現場の声や想いに耳を傾け、正解のない問いにともに向き合う大切さを糧にして、両立に向けた模索を続けていきたいと思います」
「単にフレームワークを埋めていくだけでは、インパクト評価は成し得ない。金融機関ではなくインフラ計画に携わる企業として、さまざまな方と対話し、社会課題に向けた意識を集めることで、新たな事業につなげられるのではないかと感じています」
「限られた時間内で悩みながらも、ああ、楽しかったなと感じます。この楽しさは、人に想いを馳せて仕事に取り組むことから来るものではないでしょうか。お預かりした資金を通じて、その想いをつないでいきたいと思います」

【閉会挨拶】ここから始まるインパクトのビジョン

新堂信昭(慶應義塾大学 イノベーション推進本部)
みなさま、まことにありがとうございました。第0期はこれで最終日となりますが、みなさまそれぞれに組織や立場を超えた共創をともに体験した仲間として、あるいは来年以降も継続していく今後のプログラムの修了生たちも交えて、またご一緒できましたらと考えております。また慶應義塾大学イノベーション本部としましても、さらなるスタートアップ支援に向けてぜひ、みなさまとの新しい機会につなげていけましたら幸いです。どうもありがとうございました。

——以上をもって閉会となった、「慶應義塾イノベラボ」第0期。研究開発型スタートアップを題材として、イノベーションを生み出す“技術×事業×社会課題”の重なる領域を追い求める取り組みは、研究シーズの事業化を支援する大学と資金の支え手の双方が、インパクトという考え方のもとに想いやビジョンを共有し、よりよい未来の可能性を広げていく試みでもありました。
私たちが直面する社会課題を、いかに乗り越えていくべきか。この答えのない問いに対し、今という同じ時代を生きる人々が、お互いの力を結集し、立ち向かっていくために。垣根を越えてイノベーションを支え、共創を導くための挑戦は、まだ始まったばかりです。

※本事業は、慶應義塾大学の研究大学としてのビジョンである「未来のコモンセンスをつくる研究大学」の実現に向け、日本学術振興会「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択された取り組みの一環として実施されています。
※本事業は、特定の企業に対する投資を推奨するものではなく、また法的責任を負うものではありません。

一覧へ戻る